横堀将軍 石井定七との戦い

山崎種二が大暴落でスッテンテンになった翌年、米相場が上げ始めた。大雨が続いたせいで米が凶作になるというのが買い材料だった。

この上げに弾みをつけた相場師がいた。

石井定七である。彼は、材木・米相場で大きく儲けてから銅や綿糸にまで手を伸ばして連戦連勝で勢いに乗っていた。彼は、大阪の横堀に自宅があることから「横堀将軍」とも呼ばれていた。

その石井定七が、米相場に帰ってきたのだ。

彼は「買い方」に陣取り米を買占め始める。

米相場は、春には25~6円だったものが彼の参戦で弾みがつき40円台まで上昇していった。

山崎種二は、これに・・・売り向かった

売りの山種 当たり前のことが出来ないのが相場

「凶作に売りなし」「豊作に買いなし」という相場格言がある。

当時の彼の「売り」戦法は、このセオリーどおりにも見える。一見、当たり前のようだが、実はそれが難しい。

普通に考えれば、「凶作になれば米の値段があがるから買い」と考えるてしまう。でも、「そこで買ってはいけない」というのがこのセオリーの意味だからだ。

FXでいうなら今の状況であれば、誰もがこれからも円高は続くと感じているだろう。僕もそう思っている。でも、そういう時には米ドル円を売ってはいけない、というのと同じような事になる。

相場には先見性がある。

多くの人が「上がる」と思う状況は要注意で、既に十分に上げてしまっている事が多いものだ。

つまり、「誰もが上がると思うような相場は絶対に上がらない」という別の相場格言のとおりになることが多い。

FXだと「円高に売りなし」「円安に買いなし」て事ですね。

ここで注意して欲しいのは「円高初期は売りで良い」というところです。誰もが「ここからも円高だ、ユーロも米ドルももっと下がるぞ」と思い始めるような時には十分に注意していこう・・・という感じの解釈でいいと思います。

話に戻ります。

石井定七の買い資金は、借金で賄われていた。

これに山崎種二を含む売り方は、売りポジションで立ち向かい石井定七に勝った。石井定七は、ここで大損を出したため借金まみれになり、この後「借金王」とも呼ばれるが、その借金を逆に利用して銀行を利用したことでも有名になる。

石井定七も、負けてもただでは転ばない、したたかな人物であった。

その石井定七に勝った山崎種二であったが、実は最初から勝算があった。

彼にとっては、「勝つべくして勝った」戦いであったのだ。

勝つべくして勝ったサヤ取り戦略

山崎種二は、「現物米を確保して売りポジションを作る」という戦略を取った。つまり、こうだ。
 
現物米買いポジション - 先物米売りポジション

米相場が暴騰すれば、先物米売りポジションは大きな損失となる。しかし、先物が上がれば現物米も上昇するのでその損は相殺される。

米先物市場では、山崎種二は売りポジションだけがあるので「売りの山種」となるが、その裏では現物米を握っているのだから、実質的にはサヤ取りの状態だった。

要は・・・・

米相場が上がろうと下がろうと山崎種二は損をしない状況になっていた。

こういうカラクリだったのです。

このサヤ取りポジションが完成している以上、借金で買占めを続ける石井定七には勝ち目は薄かった。

見た目には、危うい勝利に見えたとしても実は裏ではきっちりとした管理と戦略が出来ている。それが、常勝将軍として知られた山崎種二の戦い方でもあった。

実は、この仕組みは現代でも出来ないことはありません。大型農家や農協などはこの仕組みをもっと積極的に利用すべきだとも思います。

例えば、農家の方が最近上場した米先物を使って米が暴騰しているときに先物市場で米の売りポジションを作っておけば、秋に出来た米を高値で売りさばく約束を取り付けたのと同じになります。

先物の米売りポジションには決済しないといけない期日があります。その期日に現物米があればそれを出すことで決済が出来ます。ここは、商品先物とFXの違うところですね。

これと、全く同じことはFXでは出来ないのですが、似たようなことは出来ます。

次回へ続きます。