結婚

「そろばん」の中にある相場師山崎種二の結婚のときの話をまずはお聞き下さい。

26歳頃、結婚の話が出た。相手の家系は政治家も輩出している実業家で、アメリカ向け生糸業で成功を収めていた。彼女の母は、群馬の山奥から神戸の神戸女学院に入り、外人の教育を受け第三回卒業生というような人だった。

こういうお嬢さんだから、ライバルもエリート揃いである。お嬢さんの名は「ふう」という。山崎種二は、並みいる強豪エリート花婿候補を押しのけて彼女の心を射止めた。

妻となった「ふう」さんは、結婚を承諾する時にこう言った。

----

結婚してもいい。
ただ、あなたはお米屋さんだけど、いつまでも、このままではいやだ

----

誤解ないように説明すれば「米屋が嫌い」という意味ではない。つまり「一生下積みでは困る」という意味だった。

山崎種二は驚くと共に、更に妻が気に入った。

----

私も男だ。

必ず店を持つ。

お前には絶対に心配させるようなことはしない

----

こう言い切った。これで婚約成立だった。

この頃、相場運用も順調で3万円ほどの資産も出来ていた。

しかし、良い事は長くは続かない。

浮き沈みは、相場師の常である。「お前は絶対に心配させるようなことはしない」ということがあるわけがない。

すぐ先に、試練が待っていた。

大暴落

結婚式を挙げて1ヵ月後、突如相場は大暴落した。米も株も大きく下げた。三年続いた大相場の終幕となり、市場は大混乱となったのだ。

「売りの山種」とまで言われた山崎種二だったが、この時はまだ普通の運用をしており、買いが中心だった。当然、大打撃を受ける。

山崎種二は、ここで大損をこうむり貯金もすっかりはたいてスッテンテンとなる。

追い証取りに追いかけられて逃げ回り、家に帰るのは随分遅くなるという有様だった。

・・・「追い証取り」の意味についてちょっと補足させて頂きます。

*追い証:FXでいうところの不足金。大損した時に証拠金を全て飛ばして借金となった状況。FXでは、証拠金がなくなるまでに強制ロスカットが起きるのでこの現象はなかなか起きません。

しかし、商品取引や株式取引などで店員との直接取引をしている時などは、証拠金が不足したときに強制ではなく、入金をするまで少し待ってくれます。しかし、待たせておいて入金がないと取立てをする人がでてくることになります。

この人達を「追い証取り」と呼びます。

・・・・ 補足終了

結局、賞与を前借りして、食事はみそ汁と佃煮でしのぐことになった。

最初に失敗したのが良かった

山崎種二さんは、著書の最後「相場の秘訣」の冒頭でこの大損の時期をこう書いています。

----

考えてみると、手はじめの相場でうまくいかなかったのがよかったのかもしれない。

いかに相場がむずかしいものか。そして失敗した時の恐ろしさを心底、身にしみて感じ。肝に命じることができた。

----

「相場の神様」と呼ばれていた山崎種二さんも、最初の頃は失敗続きでした。この本以外にも「私の履歴書」などで失敗談を披露されています。

その失敗談を読むたびに「流石」と思うところがあります。

「大失敗の経験を活かし、教訓としている」

これは、相場で成功する人達の共通事項でもあります。

FXを始めてから、ほとんどの人が初期の段階でつまづき損をします。そこまでは、大相場師も私達凡人も同じです。でも、失敗してからの気づきや活かし方に差が出てきて、それがその後の相場運用で大きな利益の差となっていきます。

彼はこの心構によって、次の成功を手にすることになります。

次回へ続く